2025.06.23
2025.06.23
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
平等院住職 神居 文彰
この数年、薫りの聞こえる絵画を探している。
物理的臭気ではなく作品から醸しでる香気である。むかし読んだ米芾(べいふつ)を主人公にした美術漫画の影響であろう。楽器の描写があれば音が身体を駆け巡るイメージである。徽宗(きそう)帝のように芸術∨社会ではないにせよ、白洲正子のように美しいものに囲まれて生きてみたいという気持ちもある。
モノクローム作品の色彩受容は経験に左右されるという。香りは色香とも関係しクレオパトラの香水は激発、聞香は沈静と比較され、色から連想される香りの研究もある。
表現は隠されたものを活写する心の内面に連続する。眼球に浮かぶ炎、光や花を背負う描写に違和感はない。オノマトペも駆使できる。

現在、タイムループものが活況と聞く。テルマエ・ロマエやオール・ユー・ニード・イズ・キル、まどか☆マギカ、仁などはいずれもドラマや映画になり、超兵器による前大戦逆転もの、古くは『夏への扉』、『時をかける少女』を思い浮かべる人もいるだろう。
白洲は過去を振り返らないと云った。人は過去に戻ったり変えることは出来ない。それを無理矢理(むりやり)なかったことにしたり懐旧に浸(ひた)りきる姿勢への自省…。それでも過ちとやり直したいことがどれほど多いことか。
手塚治虫は「70年万博」のフジパン・ロボット館をプロデュースした。再生医療や不老不死、AIの可能性とそこに対峙(たいじ)した自己と人間性、不可避である死を暗喩した企画であった。光りが強ければ強いほど背後に伸びる影の輪郭が明瞭になる。振り返ることを恐れ目を逸(そ)らしたくはない。
手塚のロボは愛・地球博に継承展示され、RX―78ガンダムは解り合う未来をテーマに夢洲で漆黒の空を指す。
火の鳥復活編では再生された主人公と機械人形が恋に落ち溶鉱炉前で肩を寄せる。Gペンの墨線から、色彩に満ち溢(あふ)れた美しくも切ない光景が聞こえた。
かみい・もんしょう氏
大正大学大学院博士課程満期退学。愛知県生まれ。1992年より現職。現在、美術院監事、埼玉工業大理事、メンタルケア協会講師など。