ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

観察力生かし心情理解

2025.08.11

  • 若葉

社会福祉法人八身福祉会 就労支援員/木村 彩乃(きむら あやの)さん(23)

 東近江市の自然豊かな地域に、社会福祉法人八身福祉会が運営する障害福祉サービス事業所がある。ここの職員となって3年がたつ木村彩乃さん(23)は、障害のある利用者の就労を支えている。「福祉の勉強をせずに入ったけれど、人の役に立てている実感をもてるようになってきました。ハンディのある人は素直で優しい人が多く、大変な仕事も文句言わずに取り組んでいてすごい。しんどいこともあるけれど、力になりたい気持ちがわいてきます」

 商業高校でITや情報処理を学んだが、コロナ禍で就職が難航し、卒業後はパートで縫製の仕事に就いた。知人が同法人で働いていたことがきっかけで、求人に応募。見学に行くと、「特殊な仕事だからゆっくり考えて」と言われたが、即決した。「幼少期から障害のある人は身近にいて戸惑いもなかったし、早く働きたかった。兄が発達障害のグレーゾーンだったこともあり、この分野を勉強しておきたいという気持ちもありました」

野菜の栽培を手がける「葉菜屋」で利用者の仕事を見守る木村彩乃さん(7月28日、東近江市)

 入職後の職場は、「学童保育のような、和気あいあいとした場所に仕事が加わった」という印象だった。利用者たちは裏表がなく、年上だが「怖い」「とっつきにくい」という感覚もなく、自分にはないものをたくさんもっていた。「どうすればうまく伝えられるか、何が苦手で、何ができるのか、知りたいなという気持ちでした」

 同法人では、野菜の栽培から販売までを手がける就労継続支援B型事業の「葉菜屋」や、シートベルトの部品の組み立てなどの就労継続支援B型事業、生活介護事業、企業への就職を目指す就労移行支援事業など、さまざまな部門があり、「働く」ことを支えるサービスを提供する。木村さんは、8月から就労移行支援事業の担当として、利用者をサポートする。

 「福祉の仕事に就くとは思ってもいなかったけれど、今は自分に向いていると感じています」。その理由の一つに、木村さんがもっている「人間観察力」がある。人の言動を観察し、人の気持ちを深く考えすぎて、中高時代は人間関係に苦労することもあった。「でも、この仕事では、人間観察力がプラスに働く。利用者さんの表情や動作で調子の良しあしがわかる」。自分の存在意義を感じ、自分の居場所を確立できていることに、喜びをかみしめている。

 入職当初は、利用者とのコミュニケーションに苦心したこともあった。怒られたり、傷つく言葉をかけられたり。「それは仲良くなりたい気持ちの表れだとわかってきて、心情を理解し、重く受け止めないスキルも学びました」

 気づけば3年がたち、できることも増えてきた。「自分の気持ちが満たされ、職場も寛容で働きやすい。大企業の雰囲気が苦手な人や、私のように周りの人の顔色を気にする人、心理学に興味のある人たちには、ぴったりの職場だなと思います」。福祉を学んでいない人にも魅力を伝えたいという思いを強くしている。


(フリーライター・小坂綾子)

社会福祉法人八身福祉会

東近江市で「働くことからノーマライゼーション」を掲げ、事業所を運営する。1986年、八身ワークキャンパスとしてスタートし、97年に法人を設立。就労支援などの事業を展開する「八身共同印刷」「八身ワークショップ」「葉菜屋」があるほか、相談部門がある。0748(22)5173