ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

生活保護基準引き下げ「違法」

2025.08.25

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

 6月27日、最高裁判所第3小法廷(宇賀克也裁判長)は、「いのちのとりで裁判」(生活保護基準引下げ処分取消等請求事件)の大阪地裁分と名古屋地裁分の裁判について判決を言い渡した。

 その内容は、原告側の損害賠償請求を認めなかったものの、「厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法三条、八条二項に違反して違法」であるとして、2013年から3年間の生活保護基準引下げを全員一致で取り消す原告勝訴の判決だった。

 これまで生活保護基準をめぐってその違憲・違法性が争われた裁判としては、朝日茂さんが争った朝日訴訟、老齢加算の削減廃止を争った生存権裁判があったが、基準の額自体の生活保護法違反が最高裁で認められたのは、生活保護裁判史上初めてのことであり、まさに歴史的な判決といえる。

 この引き下げは、13年から3年間かけて生活保護基準を平均6.5%、最大10%も引き下げるというもので、制度発足以来最大の引き下げだった。

 生活保護利用者の間からは、「これでは生活できない」との声が次々と寄せられ、全国29の地裁に合計1025人の原告が引下げ処分の取り消しと損害賠償を求めて裁判を提起した。そして、地裁で原告側勝敗、高裁で7勝5敗の判決を積み重ねた結果の最高裁での原告側の勝訴判決だった。

 最高裁判決の日、私たちは、すべての生活保護利用者に対する真摯(しんし)な謝罪、改定前の生活保護基準との差額の遡及(そきゅう)支給などを求める要望書を厚生労働大臣に提出したが、大臣からは、8月15日になって「反省」の意向が示されただけで、「謝罪」はなく、「保護基準との差額支給」については、専門家の審議に任せるとの態度である。

 最高裁で勝っただけでは事態は動かない。

 8月16日の大文字送り火では、この10年の間に亡くなられた232人の原告の人たちの御霊(みたま)をお送りし、さらなる運動を誓う送り火になった。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。