2025.09.08
2025.09.08
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
平等院住職 神居 文彰
万博海外パビリオンで、あるアーティストイベント閉会挨拶(あいさつ)の機会を得た。
日本の源氏物語と同じく世界でも古くから多くの物語が創出され、拡張した絵画や造形がそれを元に産出され続けている。
その新しい物語絵の評価と広範、文化が紡ぐ新しい可能性の切っ掛けとして呼び出されたと思う。
5千年前インドの叙事詩マハーバーラッタ冒頭にある色香によって仙術が破られるリシュリンガ(―おわかりの方はそのまんまの単語であるとにんやりしてほしい―)の説話は今昔物語や歌舞伎十八番の鳴神にまで継承し、オリエントを超え14世紀英の『カンタベリー物語』に表載されている。

南伝の仏典では引用シーンが蓮(はす)に喩(たと)えた性器描写で艶やかに綴(つづ)られ、学生時代の輪読会では女学生は顔を赤らめていたと思う。「もそっと」と胸襟に鳴神上人の素手を導き入れる場面など比べものにならない。
ふっと思い出して平安末、後白河天皇創始といわれる若紫をウイットした 『小柴垣草紙(こしばがきそうし)』を文机(ふづくえ)で10㍍ほど紐解(ひもと)いた。秘戯とされる濃密な絵詞が、深い情愛だからこその結末にかえって物悲しさを深めていた。鎌倉時代の『十訓抄(じつきんしょう)』にも語られている。
巻き取りながら周りを整理していると前回の万博70年に増刊された『サンデー毎日』11/6号が出てきた。ご承知の通り巻末には発禁となった手塚治虫の「ながい窖(あな)」が掲載されている。
発禁処分された書籍や映像、禁書焚書は山のようにあるが、それは描写が時代にそぐわないと社会が羈束(きそく)したと云える。小林多喜二の『蟹工船』は現在読書が可能であるが、戦前の子ども向け絵本『ヒットラー』は当時のプロパガンダが凄(すご)く、版元の完全復刻シリーズにもない!
手塚の漫画は「民族の悲劇 在日朝鮮人問題に真正面から取り組んだ」とコマ外に告知されている。
万博通の友人が、かつて植民地を有していた国のパビリオンは、幸せ洪水でガス抜きが巧(うま)いと呟いていた。
かみい・もんしょう氏
大正大学大学院博士課程満期退学。愛知県生まれ。1992年より現職。現在、美術院監事、埼玉工業大理事、メンタルケア協会講師など。