ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

利用者個性引き出す農作業/健康・経験・労働を柱に(2025/09/08)

2025.09.08

  • 広がる 地域の輪

京都市ふしみ学園

 「京都市ふしみ学園」(伏見区)は主に知的障害のある約70人が登録、通所する生活介護事業所。

 運営の3本柱は健康と経験、働くだ。健康面では、講師を招いた月2回のリズム体操を5年以上続け、所在する伏見社会福祉総合センターの建物屋上でのウオーキングやトランボリンなど身体を動かす機会を意識的に取り入れている。経験の面では七夕や夏祭りなど季節の行事、ホットケーキやレアチーズケーキ作りなどの調理実習のほか年数回各種のワークショップも催している。

 働く面では、同市の管理地や公園の除草作業やペットボトルのリサイクル作業などを行っているが、障害の重い人の場合、継続的に作業を続けるのが難しいことも多いのが実情だ。そこで5年ほど前から市の貸農園の一部を借りて、農作業を経験と位置づけて、健康や働く要素も含め続けている。

 10人程度の班構成で毎日交代で農園に向かい、ニンジンや大根、ほうれん草、水菜、キュウリ、ナス、トマトなど季節の野菜を栽培している。始める前には「農作業をうまくやっていけるか、作物がうまく育つか」など不安があった。しかしスタートすると、他の作業に比べて「行きたい」「楽しみ」といった声が多く、天候などで行けない時は物足りなさが表情に出るまでになった。

 雑草の除草を忘れ、肝心の作物が収穫できなかったり、種をまいても芽が出なかったりの失敗もあった。猛暑の年は、キュウリが収穫前に育ち過ぎたり、トマトの実が割れたり、枝豆やトウモロコシは育たなかったりと、失敗の経験も重ねた。虫害、特にカメムシの多さに閉口したこともある。ただ、虫が苦手な人も農園には案外、喜んで行き、作物の出来が悪い時でも、残念そうにはしているけれど、出荷を目的にはしていないのでそんなに気にすることもない。

 一方、農園の中や農作業では、各自の思わぬ面が見られたりし、担当する蒔田かおり副主任(56)は「楽しみながらも作業はきっちりしてくれる。職員にとっても、農作業はもちろん、利用者の個性を知ったり、学ぶこともあって、よい経験」と評価している。

猛暑の中、栽培野菜を手入れし、収穫する利用者ら(8月20日、京都市伏見区)=提供写真

 貸農園は、区画が分かれていて一般の利用者もおり、話をしたり、作業のコツを教えてもらうこともある。大根が育たず小さいままだった時には、畑のうねを高くする工夫を教えてもらった。他の区画を借りている別の福祉施設の利用者と顔を合わせて互いにあいさつしたりするのもよい経験だ。

 収穫した万願寺唐辛子を炒めたり、サツマイモをスイートポテトにしたり、給食のサラダにキュウリを加えたりと思わぬ調理経験にもなる。利用者からも「おいしく育つのがまず一番いい」「無農薬なので安心して食べられる」「自分が育てたものを食べられるのでいい」と好評だ。収穫物を各自が分けて家に持ち帰るのも楽しみにしている。利用者自身からは「おいしかったので、帰ってすぐに全部食べてしまった」などの声が出る。また家族からも喜ばれ、わざわざ園に連絡をくれたり、お礼状が届くこともあり、取り組み全体に手応えを得ているという。

京都市ふしみ学園

社会福祉法人「京都障害者福祉センター」が運営する生活介護事業所。1年に開所992、定員55人。知的障害者ら68人が登録利用。職員は常勤・非常勤合わせて約30人。京都市伏見社会福祉総合センター(京都市伏見区紙子屋町)3階。075(603)1288