ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

背負って歩くと見える街

2025.09.15

  • わたしの現場

京都文教大 地域協働研究

地蔵を運ぶプロジェクト(25/09/15)

 京都を代表する地蔵信仰の拠点、壬生寺(京都市中京区)で8月30日午前、京都文教大(宇治市)の教員や学生らが無縁仏の中から3体を選び、手作りの背負子(しょいこ)に移した。

 地蔵がまつられている祠(ほこら)を巡って市内を観光してもらうという取り組みだ。同大学総合社会学部の地域協働研究として1年前にも行われたが、台風が近づく悪天候のため当初プランを変更してゼスト御池地下街(中京区)だけに限定されたのだった。今年ようやく実施できることについて、実践社会学科の谷本研講師は出発前、「街の姿やコミュニティーの変化を、背負って歩くことで実感したい」と狙いを話した。

 猛暑の日差しをさえぎる笠(かさ)で保護した谷本さんらは本堂で礼拝した。重さ約17~21㌔の3体を、ゼスト御池まで距離およそ4.3㌔、約2時間かけて歩いて運んだ。地下街で開かれる地蔵盆イベントへの参加学生も出発点から一緒に歩き、道中の進行を会場へ随時伝えた。インターネット上の動画投稿サイト「ユーチューブ」では、進行状況がライブ配信された。

地蔵を背負ったメンバーは出発前、壬生寺の本堂に礼拝した(京都市中京区)

 地蔵を本尊とする壬生寺は、毎年8月下旬の地蔵盆の時期には無縁仏を「出開帳」として、町内会やマンションなどに貸し出している。地蔵盆を「京都をつなぐ無形文化遺産」に選定している京都市による動画作成に、同寺は協力してきた。

 谷本さんは、10年前の2015年にも美術家とユニットで市内の祠を巡って「三十三所」を巡礼地として選び、地蔵を背負って運んだことがある。

 30日に歩いて運び終えた谷本さんによると、10年前の取り組みで選んだ巡礼地三十三所のうち、複数の祠がなくなっていたという。

 地蔵盆は、都市開発や少子高齢化、コロナ禍などで存続や継承が危惧される。一方、谷本さんは「人をつなぎ、縁を結ぶ貴重なコミュニティーの宝」ととらえる。

 以前から研究テーマに選び、大津市や宇治市などでフィールドワークに取り組んできた。前任地の成安造形大の教員時代にも大津市内の仰木地区を学生と巡ったことがある。昨年春、宇治市に勤務大学が移った後も宇治橋に近い中宇治地区で地蔵をフィールドワークの対象に選んでいる。

 地蔵盆を受け継ぐことについて、今夏に各地域で関わった谷本さんは体験上、手応えと可能性を感じているという。

 8月下旬には、城陽市の街道に面した長池地区で地蔵盆に関するワークショップが催され、谷本さんも招かれた。大学生サークルが、町内会やマンションでの地蔵盆にボランティア活動としての参加も増えている。

 「ネットを通じて町内会やマンション住民が開催ノウハウの情報を共有し、学生のエネルギーや意欲、アイデアをもっと受け入れていけば、伝統と文化を時代に合わせた形で続けていくことができるはずです」。そう力を込める谷本さんは、今後さらに新たな地域へと関わりを広げていくそうだ。

(秋元太一)