ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

戦争と排外主義の世紀

2025.09.22

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ACT-K主催、精神科医 高木 俊介

 アメリカ国防総省が「戦争省」に改名される。トランプ氏は「力の平和を確かなもの」にすると言う。力は常に誇示していなければ力にならないので、力で戦争は終わらない。なるほど、戦争省と改名しなければおさまらないわけだ。

 世界中に排外主義がはびこっていることも、気がかりだ。「アメリカ・ファースト」が、いつのまにか「日本人ファースト」と微妙にコピーされて広まった。日本「人」であるところが他民族への排斥感情を感じさせる。自民族中心主義は国単位の排外思想よりも根深い。ウガンダもサラエボも、それが生んだ悲劇だった。

 二十一世紀を四半世紀過ぎて、「戦争と排外主義の世紀」がはっきり現れてきたのではないか。世界中で多くの人々がこの危険な思想になびく背景には、世界経済の状況があるだろう。

 極端で急激なグローバル化は、先進国と途上国の間の格差にもまして、先進国国内の厳しい経済格差をもたらした。コロナ禍が世界中でそれを加速した。アメリカも日本も、かつて経済繁栄をもたらした分厚い中間層を失った。アメリカは世界の富を少数の企業で独占して、戦争できる力を世界に示しながら寡頭政治をめざそうとしている。

 日本は経済的には凋落(ちょうらく)の一途であり、現代社会に必須なIT産業プラットフォームをほぼ外国に依存している。排外主義で外国人を排斥し、残された富にしがみつく。だが、人口が年に100万人減る国は外国人なしにはまわらない。

 戦争も排外主義も、長期的には経済の混乱、停滞、破壊をもたらす。自国や自民族ファーストで発展できる国はない。地球は小さく、閉じているのだ。二十世紀の後半は、そのことを私たちが思い知るためにあったのではなかったか。

 さて、最後に一言。この世界情勢の煽(あおり)を受けるのが、医療と福祉である。今生じている経済格差は、何年か後に必ず人々の健康を襲う。世界を蝕(むしば)んでいる戦争と排外主義は、人ごとではない。健康こそは、平和と平等のたまものなのだ。

たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。