2025.09.29
2025.09.29
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
人が集まった時の雑談。健康、スポーツ、経済、或(ある)いはお米。今は総裁選が話題でしょうか。集まりの目的にもよると思いますが、私の周りで一番盛り上がるのは食べ物の話。誰でも参加できる気軽な話題ですし、好きなもの、お気に入りのお店、人生の最後に何が食べたいかなどという会話で皆が笑顔になります。私も食べることは大好き。特に美食家というわけではありませんが、お出汁(だし)の風味が口の中に広がったり、器の中に季節を感じたりする時は本当に幸せな気分になります。
家で作る食事も、最近は質の向上したレトルトや冷凍食品を味わうのも楽しいですが、外食の場合は味だけではなく、お店の雰囲気がいいと、その一皿が食べられることの幸福感が倍増するように感じられます。何も高級である必要もなければ特別な演出も要りません。自分の好みに合ったお店で食べると「空気も味のうち」、そんなふうに思えます。

その空気もおいしいお店の何軒かが、コロナの時期以来ここ数年の間にさまざまな事情で閉店になってしまいました。また、インバウンドの影響で入りにくくなってしまったお店もあって寂しく思うことがあるのですが、寂しさの大きな要因はそのお料理が食べられなくなったことよりも、そのお店に行けなくなったことである場合が多いことに気づきます。もちろんお店の味も覚えているのですが、思い出されるのは、「ごちそうさま」と言って帰る時に「ありがとう。また待ってますね」と見送ってくださったお店の方のお顔やお人柄なのです。私が満たされていたのは、胃袋よりもこころだったということなのかもしれません。
食べ物の情報があふれ、当たり前に食べることができる毎日。そんな時代だからこそ、食材が私の口に入るまでの多くの方々のさまざまな思い。作る人と食べる人。いのちとこころをつないでくれる食べ物に感謝し、ありがたく味わいたいと改めて思うこの頃です。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。