2025.10.13
2025.10.13
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
立命館大名誉教授 津止 正敏
「人類はどこから来て、どこへ向かうのか」。9月に日本考古学協会が主催、日本人 学会と日本旧石器学会などが共催したシンポジウムの主題だ。
同資料集に、戦争や偏見、不寛容が渦巻く世界に埋没しつつあるように見えるこの社会だが、このことは私たち人類が望んできた未来なのか、との一文があった。わが意を得たり、と思わずひとり相槌(あいづち)をうった。3月に京都で開催した講座「人類進化と介護」に相通ずるものがあったからだ。
私が代表を務める男性介護ネットが主催した講座だが、いま社会の厄介者扱いされている介護の評価は正当だろうか、介護は人類進化にどう関与したのだろうか、を問いにして催した。

講師は人類学者の馬場悠男さん。ジョージアのドマニシ遺跡で発掘された180万年前の頭骨化石から講座は始まった。この化石は加齢によって歯がほとんど抜け落ちていた。ひどく委縮した上顎骨・下顎(かがく)骨や埋まった歯槽は、歯をなくした後も長く生き延びていたことの証しとなった。生きられたのは、柔らかい食物をもらうなど誰かの世話があったからにほかならない。人類最古の介護の痕跡だ、と馬場さんは語った。
発掘に関わった考古学者や人類学者はこの介護の痕跡を、人類に思いやりや助け合いの心が芽生えていたことの確かな証しとした。介護は人間らしさの証しと言っているに等しい。介護をあってはならぬ社会の厄介者扱いする今の風潮とは真逆の評価ではないか。
冒頭の3学会は、今年6月に「小学校における人類の出現から旧石器時代に関する歴史学習の必修化を求める声明」を発表している。歴史の学びを人類の誕生と進化から始めることで、世界各地で暮らす人類は同じヒトとしてこの地球で命を繫(つな)いできた仲間であることを子どもたちに伝えることができる、という。「国の始まり」からではなく人類700万年の歴史を丸ごと学ぶことは子どもたちの未来を創造することでもある。「人類誕生」とともにある介護の分野も然(しか)りだ。
つどめ・まさとしけ氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる-男性介護者100万人へのエール-』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言-』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」-』、『子育てサークル共同のチカラ-当事者性と地域福祉の視点から-』など。