ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

障害者の日常 セリフに込め

2025.10.27

  • わたしの現場

小石 哲也(こいし・てつや)さん

劇団「まちプロ一座」座長(25/10/27)

 大津市の障害者福祉事事業所「まちかどプロジェクト(まちプロ)」の一室に、演劇のセリフが響く。「手伝ってくれるのはうれしいけど、棚にある商品、取って欲しいわけじゃないねん。自分で取れるものは取りたいねん」

 障害のある人とない人との、スーパーでのやり取りを描いた演目「積もる話はいろいろと…。」の一幕だ。演じるのは、障害者メンバーが中心になって活動する劇団「まちプロ一座」。座長の小石哲也さん(43)は、脳性まひで身体障害がある。

 「僕たちの演劇を見て、感じてもらって、共生社会のために何か始めるきっかけにしてもらえれば」。障害者の日常を題材にした演目を披露することで、話すだけでは伝わらないメッセージも伝わるのではないか、という思いがある。

 演劇との出会いは2005年。まちかどプロジェクトの活動の一環で「まちプロ一座」が発足した2年後だ。「大学を卒業してブラブラしていた時、まちかどプロジェクトを知り、興味がわいて通うようになりました」。演劇は、支援学校時代に文化祭で経験したが、その時は「やらされている」と感じていた。

自主公演に向けて稽古に励む小石哲也さん(左)=大津市・まちかどプロジェクト

 だが、まちプロの活動は違った。「アドリブを入れ、自分らしく演じられる。目立ちたがりの僕にとって、演劇はとても面白いし、楽しい」。たちまち、演じることに夢中になった。

 まちプロのコンセプトは、「障害者がどんどんまちに飛び出して人と関わろう」。定期的に自主公演を開くほか、依頼を受けて上演したり、保育園で子どもたちに向けた演技を披露したりしている。

 自主公演の演目では、障害者が日常的に感じることやメッセージを随所にちりばめる。働きや暮らし、結婚など、人生のさまざまな出来事について考えてもらうシナリオを劇団で作成し、団員が演じている。現在は、11月29、30日にスカイプラザ浜大津で開催する9回目の自主公演(問い合わせはまちかどプロジェクト077(543)2844)に向け、猛練習中だ。

 演者として、自分とは違う人物になりきることを楽しむ一方、座長として、みんなと力を合わせて表現する面白さも感じている。うまくいかないこともあるが、メンバーを鼓舞し、まとめるのも座長の役割だ。公演を控えたメンバーがセリフを覚えられず、「もうやめる」と挫折しそうになった時も、親身になって話を聞き、無事にみんなで演じきることができた。

 観客の層は、若者から高齢者まで幅広い。メンバーたちは言語障害がある中で演じるため、観客からは「聞き取りにくい」などの声が寄せられることもあるが、「改善点を伝えてくれるのは、劇団として見てくれている証拠」と前向きにとらえる。自分の言葉と声で伝えたいという思いを届け、テロップもつけず、滑舌練習に励む。

 演劇歴20年になり、演技に向き合う心持ちは、最初の頃とは違う。「続けることで、だんだんと僕たちの考え方や思いが浸透していったらいいな」。座右の銘は「継続は力なり」。続ける大事さを実感しつつ、いつかびわ湖ホールでの公演を夢見ている。

(フリーライター・小坂綾子)