ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「保険料」引き下げは何をもたらすか

2025.11.11

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

 自民党と日本維新の会の連立の結果発足した高市内閣は、医療機関や介護施設の経営危機を受けて、補助金の前倒し支払い、報酬の引き上げの必要性を強調している。一方、日本維新の会は、参議院選挙で「医療費を年間4兆円削減し、社会保険料を下げる」ことを公約していた。

 そして、この両者を実行するために、政府は、医療、介護の自己負担分の増加、市販薬と成分や効果の似たOTC類似薬の保険給付外し、介護でのケアプランの有料化、要介護1、2の保険給付外し、高額医療費の患者負担上限の引き上げなどを検討しているという。しかし、この内容は、結局のところ、医療や介護の必要性の高い人、低所得者の負担が多額になるという結果につながる。はたして、「保険料」の引き下げは、真に負担の軽減になるのか。

 もともと、保険料負担が多額であることは深刻な問題であり、私も引き下げの必要性をかねてから強調してきた。問題は、引き下げの仕方である。現在の保険料の負担割合は年収200万円で14.5%、300万円で14.3%、500万円で14.4%となっている。これに対して年収1億円では1.83%、10億円では0に近い。つまり、低中所得者の負担率が高く、高額所得者の負担率が極端に低く、これが多くの市民の負担の重さとして、感じられているのである。

 これを是正する方法としては、まず中低所得者の保険料を下げ、高所得者の負担を上げる必要がある。保険では、給付の額と負担額のバランスを考える必要があり、高額所得者の保険料の増額には限界があるというのであれば、税金から支出する公費負担の額を増額すべきだ。この増額分は、1億円以上の収入になると所得税率が低下する現行税制の改善と富裕税の創設、さらには、防衛費の削減によって賄うべきである。

 保険料の引き下げを給付内容の制限と自己負担額の増額によって賄うという方向は根本的に改める必要がある。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。