ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

どんぐりころころ

2025.11.24

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

イラストレーター・こどもみらい館館長 永田 萠

 のどかな秋の日の午後だった。こどもみらい館の一階にある「元気ランド」から、ストリートオルガンの調べに乗って歌声が聞こえてきた。2階の館長室にいるわたしが耳をすませると、歌は「どんぐりころころ」だった。

 急いで部屋を出てロビーへ。手すり越しに下を見ると、輪になってすわったお父さんやお母さんにだっこされた子どもたちが、楽しそうに体を揺らせて歌っている。

 「どんぐりころころ よろこんで しばらくいっしょにあそんだが やっぱりおやまがこいしいと ないてはどじょうをこまらせた」。青木存義(ながよし)氏の作詞は2番で終わる。ストリートオルガンの音も止まる。ところが、わがこどもみらい館の職員たちは、美しい声で歌い続ける。幻の3番目があるのだ。そう、これを聞きたくて、わたしは部屋を抜け出したのだ。

 「どんぐりころころ ないてたら なかよしこりすがとんできて おちばにくるんでおんぶして いそいでおやまにつれてった」

 どんぐりくんはお山に帰れたのだ。青木氏はあえて3番目以降は後の世に託されたとか。そして1986年に作曲家の岩河三郎氏がこの曲を合唱曲として編曲した時に生まれたのが、この3番目の歌詞なのだ。それまで2番で終わっていた「どんぐりころころ」を、きっとたくさんの子どもたちが「どんぐりくんはどうなるの?」と心配したにちがいない。そして「おかあさんに会いたいだろうな」と胸を痛めたことだろう。

 「元気ランド」で遊べるのは赤ちゃんから卒園前の園児まで。この間に想像力は生まれる。愛され守られている自分に比べて、どんぐりくんの境遇を想像し、3番目の歌詞で安心する。そんな幼児期に絵本や童謡がどんなに大切なのかを改めて思う。そして今も世界中に、窮地から救い出してくれるリスさんの背中を待っているどんぐりさん、どんぐりくんがいることを、わたしたちおとなは忘れてはいけないとも。

ながた・もえ氏
出版社などでグラフィックデザインの仕事に携わった後、1975年にイラストレーターとして独立。2016年より京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長に就任。