ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

介護保険、崖っぷち

2025.12.08

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ACT-K主催、精神科医 高木 俊介

 介護保険が崖っぷちにある。生まれて四半世紀たつ制度である。それにしても崖っぷちにやってくるのが早すぎる。よほど狭い土地に建てた家なのか、荒波に陸地が削られて崖になってしまったのか。超少子高齢化という荒波が来ることはわかっていたが、土地選びを誤ったのだろうか。だが、その土地である日本という国がここまで衰退したのは、予想外だった。

 今、この国のあらゆる制度が財源不足と人材不足に悩んでいる。周囲を海に囲まれた日本は断崖絶壁の国でもあるのだ。戦後の日本は、そこから誰も落とさないように互いに守りあってきた国だった。だが今、誰かを断崖から突き落とすことで自分た

 国会で議論されようとしているのは、①利用料2割負担②ケアプラン有料化③要介護1・2の介護保険はずしの3点である。①と③はもちろん財源問題である。財源を探すのではなく、使わないようにする。しかし、それで介護保険を使えなくなった人々が医療に救いを求めて、社会保障費はかえって上るだろう。②は介護保険利用の入り口を狭くする、つまり水際対策だ。崖下の荒波に溺れる人が増えるだろう。

 老人が大切にされすぎている、というのが今の若い人たちの不満のひとつだ。それが、政治的な右傾化やポピュリズムにも結びついている。だが、老人を切り捨てたら若い人が大切にされるわけではない。それどころか、若い人たちがますます希望を失い萎縮する。自分たちの将来を見せつけられて。

 労働者、若者、子どもたちの福祉や生きがい、将来の安心も同等に考えられねばならない。その上で互いの調整を図り、実現可能な社会を考えるのが政治の役割だろう。代々の政権は、その道筋を示すことができないでいる。

 誰かを崖から突き落としてはならない。ましてや、皆でいっせいに崖から飛び落ちるようなことになっては、いけない。

たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。