ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

出会い重ね心再生、恩返し

2025.12.22

  • わたしの現場

山部 知歩(やまべ・ちほ)さん

野菜栽培の社会で活躍(25/12/22)

 久御山町で京野菜などの栽培を手がける株式会社「しんやさい」。同社のビニールハウスをのぞくと、野菜を丁寧に収穫する「農業女子」の姿が見える。精神障害のある当事者で、同社社員の山部知歩さん(40)。九条ねぎや聖護院大根、金時人参などの野菜の栽培を手がける傍ら、企業在籍型ジョブコーチとしても活躍している。

 「自分も誰かの役に立てることがあることを実感できて、感謝の気持ちでいっぱい。野菜からは命のエネルギーを、出合う人たちからは生きる力をもらっています」

 幼少期から植物が好きで、高校では農業を学び、生花店に就職した。だが、仕事がうまくいかず、自分の特性に気がついた。精神的な不調から退職し、医師から「もう働くことはできないでしょう」と告げられて、入院も経験。「社会から必要とされなくなった」という失望感に苦しんだ。それでも、「働きたい」という思いをもち続け、ソーシャルスキルトレーニングなどで社会復帰を目指した。

「しんやさい」のビニールハウスで野菜を収穫する山部知歩さん(11日、久御山町)

 「しんやさい」で働くようになったのは2018年。メンタルの不調から抜け出し、就労トレーニングをしているときだった。相談員の紹介で同社の代表・石﨑信也さん(48)と出合い、野菜の生命力に触れたことが、人生の転機となった。「最初は、ちゃんと働くのが10年ぶりくらいで、ドキドキしていました。けれど、石﨑さんが私の得意を伸ばす環境を整えてくださって。九条ねぎの種をまき、芽が出て大きくなっていく姿に、心が再生していきました」

 自分に合う仕事もわかるようになり、どんどんおいしそうに育つ野菜を見て喜びの気持ちがあふれた。想像力が必要な段取りや数字は苦手だが、反復作業や結果が目に見える仕事は得意。次第に、早く植える方法などに挑戦するモチベーションもわき、自信を取り戻していった。

 正社員になるタイミングで運転免許を取り、その後ジョブコーチの資格を取得。現在は、同社が目指す「ユニバーサル農園」の構想に向け、年間100人を超える農業体験者や実習生に手ほどきする。障害のある子どもや大人、引きこもりの人、児童養護施設の子ども、認知症のお年寄り、全盲の学生など多様な人たちが訪れるが、得意なイラストも使って、農業の楽しさを伝えている。

 「みんなそれぞれ特性や経験が違う。自分にはない発想があって、自分の引き出しが増えていくのが面白い」。ときには、しんどさを抱える人の気持ちに寄り添いながら力を発揮できるように支える。

 「一時期は人と話すことが怖かったけれど、野菜と出合い、人との縁が次々につながり、それが楽しみになった。『働けない』と言われたからこそ、頑張ろうと思えた部分もあります」。今は、生花店で厳しく教えられたこともわかる。「すべての経験が力に変わり、パズルのように組み合わさって、今の私がある」と思える。

 今後の夢は、ピアサポーターとして園芸療法などにも取り組むことだ。「私と出会ってくれた人たちや野菜たちに恩返しをしながら、みんなが活躍できる場をつくっていきたい」

 (フリーライター・小坂綾子)