2026.04.27
2026.04.27
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
イラストレーター・こどもみらい館館長 永田 萠
こどもみらい館の図書館が「森の図書館」をイメージして内装を変え、一段とかわいい空間になった。それにヒントを得て絵を描き始めたのは、ほぼ1カ月前のこと。森の中に1本の大きな木があり、ぽっかり空いた大きなほこらの中が妖精たちの図書館になっている。枝に腰かけて絵本を読んでいる子、本を借りに来ている子、返しに来た子。細かな作業が続いたが、もうすぐできあがる。
いい時間だった。コツコツ描いていたら「あら、もう夕方!」とびっくりしたのもたびたびだった。絵が完成すると、私と作品との濃密な幸せ時間も終わる。だけどその時間は決して消えてしまわず、いつまでも絵の中に残ると私は信じている。そして願っている。

いつか私がこの世を去っても、誰かがこの絵の前に立った時、過ぎた日の幸福な時間のぬくもりがその人の心をあたためてくれますように…。としみじみしていたら、アトリエの中からたくさんの声がする。口々に「わたしたちのことを忘れてない?」「いつまで待たせるの?」。描きかけの絵を裏返しにしてまとめてあるコーナーからだ。何らかの理由で描き上げられなかった作品たちの呼ぶ声だ。決して忘れているわけではないが、描けなかったのには理由があり、そこにずっととらわれても絵はできあがらない。だからしばらく待つ。待ってもらう。
「ある時間、待ってみる力」を持てと教えてくれたのはノーベル賞作家の故・大江健三郎氏。私の愛読書の名作『「自分の木」の下で』の中で、大江さんは子どもたちに熱く語る。
苦しいこと、悲しいこと、どうしても逃れられないことを一度そっと裏返して心のすみっこに置いておく。そしてある一定の時間が過ぎるのを待つ。その待つ力があれば、いつかまたその問題に向き合い、前に進めると。知の巨人からのメッセージだ。私もそれを支えに絵を描いてきた。
さあ、待たせてごめん。次はどの子と幸せ時間を過ごそうか。
ながた・もえ氏
出版社などでグラフィックデザインの仕事に携わった後、1975年にイラストレーターとして独立。2016年より京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長に就任。