ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

声は届くか

2026.05.25

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

立命館大名誉教授 津止 正敏

 年明け早々のベネズエラ侵攻に続くイランへの武力攻撃。今も続くウクライナやガザの惨劇。分断と対立を煽(あお)り立て、倫理と道理ある声に頑として耳を傾けずに暴走する権力者たち。届かぬ声に焦燥する。

 相互理解と融和に至る政治世界はあるのか。この問いに私たちの細(ささ)やかな経験から考えてみた。足元を照らすだけの微(かす)かな(灯)あかりに過ぎないかもしれないが。

 ケアラー支援の法的根拠を!京都のケアラー当事者や支援者が声をあげ、それに呼応した京都市会が「全議員の共同提案」という画期的な手法で一昨年11月に制定した京都市ケアラー支援条例。少し機を逸した感もあったが、条例制定運動をまとめた記録集をこの4月に発行した。3月末に「京都市ケアラー支援推進計画」が策定されたことも契機となった。『京都市ケアラー支援条例制定過程の記録集』を表題に、「市会とケアラー当事者・支援者の協働作業の軌跡」を副題とした。パブリックコメントの声も収録し、340頁の大部の資料となった。

 条例制定後に開いた学習会で、地方自治の識者から「パブコメが機能した」珍しい条例と評された。ケアラー当事者等の運動はもちろんだが、応答した市会関係者や行政、パブコメに意見を発した多くの市民、関係団体・機関等の積極的な関与があったからこその成果だとの指摘もあった。

 確かに、そのアクターどれか一つ欠けても条例制定の実現は叶わなかったに違いない。この条例に関わった全ての関係者がそれぞれの立場をリスペクトしながら議論に臨場してきた。「ケアラー支援」の法制化とその在り様をただ一つの論点にして相互の対話環境の構築に尽力してきた。威嚇(いかく)と力の交渉でも、忖度(そんたく)と追随の協調でもない「緊張感あるタッグ」が成し得た実りであったように思う。
 声は届く!聞く耳を待たないかような世界とは真逆にある信頼と応答のコミュニティの力動だ。挫(くじ)けそうになりながらもその場に少しでも身を置く事ができたことに、感謝だ。

つどめ・まさとしけ氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。 京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる-男性介護者100万人へのエール-』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言-』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」-』、『子育てサークル共同のチカラ-当事者性と地域福祉の視点から-』など。