ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

つながるきっかけ大切に/若者・子どもに「居場所」を(26/07/14)

2026.07.14

  • わたしの現場

日野 貴博(ひの・たかひろ)さん

 ゆったりとした和室に、若者たちの笑い声が響く。草津市のJR南草津の駅前で一般社団法人Atlasが開く「居場所」。法人の代表を務めるのは、スクールソーシャルワーカーでもある日野貴博さん(36)。草津市や守山市、栗東市で、しんどさを抱える子どもや若者たちに向けた多様な居場所活動に取り組んでいる。

 「居場所」といっても、ただ場を提供するだけではない。Atlasの活動には、さまざまな「機能」や段階が丁寧に設計されている。「相談がしたい、家にいたくない、遊びに来たい、人との関わりに抵抗がある、コミュニケーションを練習したいなど、ニーズは幅広い。趣味のイベントなら来られる人もいるので、チャンネルを多く準備して、どの機能でつながるか選べるようにしています」

 Atlasとの出会いは大学時代。経済学部で貧困の問題などを学ぶ傍ら、教職課程を履修し、公教育以外の教育の形に関心をもっていた。そんななか、滋賀医科大学の学生たちが立ち上げた学習支援の団体Atlasを知り、参加した。そこで出会った子どもから「家に帰るとたたかれるから帰りたくない」と打ち明けられ、虐待の実態に衝撃を受けた。「SOSを受け取った以上、ちゃんと取り組みたい」との思いのもと、卒業後も活動を継続すると決めて代表に就任した。

つながりのある子どもや若者との関わり方について、スタッフと話し合う日野貴博さん(草津市)

 活動の傍ら、生活困窮者支援や自殺予防の電話相談員の仕事に従事。地域福祉の現場を知りたくて滋賀県社会福祉協議会に2年間勤務し、その後はスクールソーシャルワーカーの仕事で、教育現場にも入り込んだ。教員免許に加え、公認心理士資格も取得した。

 学生時代から変わらないのは、「知らないまま何かを語ったり、評論したりしたくない」という思いだ。「現場を知ることで、それぞれ頑張っていることや、子どものしんどさと親や大人のしんどさがつながっていることが見えてきた。自分にできる範囲で、『生まれてこなきゃよかった』と思う若者が少しでも減るようにできることをやりたくて」。しんどさにつながってしまう現状の解像度を上げ、関わる子どもや若者が力を蓄えられるように、工夫を重ねている。

 Atlasは、行政からの居場所運営の委託を機に2018年に法人化。現在は、約40人のスタッフと共に、守山市と栗東市、草津市で居場所づくりや個別支援、アウトリーチを展開し、対象年齢は小学生から30代までと幅広い。

 Atlasで関わる子どもや若者は、主に「どこにもつながりにくい」ケースで、高度な相談援助スキルが求められる。このため、つながれるポイントを見つけることは、大きな仕事だ。「大切に考えているのは、本音を話してもらうことと、理解者であること。苦しい状況は変えられなくても、誰かに理解してもらえたという実感があれば、踏ん張れることもある」。そう感じている。

 活動を通して広く伝えたいのは、子どもや若者が「力をもつ主体」であるということだ。「パワーが枯渇していても、出番があると元気になれる。ゲームやダンスなど、それぞれ抱いている小さな夢を一緒にかなえられるように、これからも活動を続けていきたい」

 (フリーライター・小坂綾子)