ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

勝ったと思った方が負け

2026.08.24

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

真宗大谷派僧侶 川村 妙慶

 無神経な一言にムッとして、思わず言い返し、口論になった経験はありませんか。あとになって、「なぜ、あんなに過敏になったのだろう」と思うこともあります。

 人は、自分の中で劣等感として抱えている部分を、相手からピンポイントで突かれると、ショックで思考が止まります。そして次の瞬間、頭の中でアラームが鳴り始める。「何とか言い返さなければ」と、心がパニックになるのです。

 「あなたには何の取りえもないね」「1人暮らしって寂しくない?」「あなたみたいな人でも親になれるんだ」。そんな言葉を受けると、自分の価値まで否定されたように感じます。けれど、言い返して相手が反省するとは限りません。むしろ「やっぱり、きつい人だ」と受け取られることもあります。火事になれば警報機が鳴ります。火種に「なぜ燃えるの」と腹を立てても、火は消えません。まず離れることが大切です。人間関係も同じ。嫌な言葉から離れることは、逃げることではありません。柳のように、しなやかに受け流すことです。強風にさらされても、柳は風に逆らわず、しなやかに身を曲げますね。

 「青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光」『仏説阿弥陀経』。浄土に咲く蓮(はす)の花は、それぞれの色のまま光を放ってそれぞれに美しいと教えてくださいます。

 私たちは、誰かより優れていることが「輝き」だと思いがちです。しかし、人にはそれぞれ、できることも、できないこともあります。比べて勝とうとすれば、いつまでも心は休まることはないのです。

 だから私は、「勝ったと思った方が負け」だと思っています。誰かと比べなくても、あなたには、あなたにしかない輝きがあります。泥水をかけられても、泥水だけを流せばいい。あなた自身が泥に染まることはないのです。蓮も泥に染まることなく、尊い私を生きているのですよ。お経には、私たちの視点を変えてくれる智慧(ちえ)があるのですね。

 

かわむら みょうけい氏
アナウンサー。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。