ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

聞くこころ、見るこころ

2026.10.12

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

 バスの中で「今、鴨川の景色はどうなっていますか?」という声が聞こえました。振り向きますと白杖(はくじょう)を持った方が立っておられて、付き添いの方が「そろそろ木の葉が色づき始めたようですね」と答えられました。「そうですか。もう秋も深まりつつあるんですね」と言われたお顔はとてもにこやかで、まるで遠い景色を見ておられるようでした。何気なく車内を見回しますと乗客の殆(ほとん)どは下を向いて手にはスマホ。そして私もその一人だったのですが、その時まで季節の変化に全く気づいていなかった自分が少し恥ずかしくなったのでした。

 この日の出来事だけではなく、視覚や聴覚に障害をお持ちの方にお会いしたり、お手伝いをさせていただいたりすると、自分はぼんやり見聞きしていて、さまざまなことに鈍感になっているように感じることが度々あります。

 視覚に障害をお持ちで、私の歌の教室に参加してくださる方があります。教室といっても皆さんと叙情歌や懐かしい歌を楽しく歌っているだけなのですが、その方は実にたくさんの歌の歌詞を覚えておられて朗々といいお声で歌われます。つい歌詞の文字を拾いながら歌うのとは違い、歌の内容を十分に理解しながら、何度も聞いて覚えておられるからでしょう。歌うことの原点、大切なことを教えていただいているように思っています。

 また、こんなこともありました。ステージからふと客席を見ますと、聴覚に障害をお持ちの知人が座っておられて、にこにこしながら軽く頭をゆすっておられたのです。そのコンサートは障害をお持ちの方も出演された第九のコンサートだったのですが、彼女の笑顔によって私はとても満ち足りた気持ちで「歓喜の歌」を歌ったのでした。

 ちょっとこころを傾けて見てみる、こころを澄まして聞いてみることで、忘れてしまっている何かを思い出すことができるかもしれない。そんなことを考える機会をいただきました。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。