ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

後悔をくぐり抜けたら検証へ

2026.10.26

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

もみじヶ丘病院院長、精神科医 芝 伸太郎

 後悔した経験のない人など、この世に存在しないでしょう。幸せそうに見える人でも、心の内奥には無数の後悔が刻まれています。後悔は人間の宿命です。

 本コラムでは「想定よりうまくいかなかった場合」を「失敗」と呼ぶことにします。失敗すると人は後悔します。後悔しても結果が変わらないことがわかっているのに、後悔してしまうのです。「後悔するな」という説得など効きません。

 後悔とは「現在から過去を照射すること」です。あれこれと考え悩むのは仕方がないにしても、後悔が非生産的であることも事実です。単に苦痛が増すだけで得るものはありません。

 後悔してしまうのは別に構いません。その次の展開があればよいのです。後悔をくぐり抜けてください。そこには、検証という重要な作業が待っています。

 検証とは「将来から過去を照射すること」です。失敗を分析すれば、いくつかの要因が見つかります。そこで、以後に似たような轍(てつ)を踏まないための対策をイメージしてみてください。将来に過去と全く同じ状況が再現されるとはかぎりませんが、失敗からは必ず有益な教訓を引き出せます。

 「想定よりうまくいった場合」つまり「成功」の検証はやめましょう。成功の要因は往々にして「運」だからです。「たまたまうまくいった」事例に学ぶものはありません。二匹目のドジョウを狙うと痛い目にあいます。成功者の自伝を読むのも無意味です。並外れた努力はあったでしょう。でも「努力できる環境」はひとつの「運」です。

 故野村克也監督が好んだとされる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という格言は、人生全般にあてはまるように私には思われます。

 成功したら、「運が良かった」と喜んで、すぐに忘れてしまいましょう。失敗したら、まずは後悔して、次にそれをくぐり抜けて、検証してみてください。工夫の余地がいくつも見つかり「人生の打率」が格段に向上するはずです。

しば・しんたろう氏
京都大学医学部卒。兵庫県生まれ。 1991年もみじケ丘病院。2018年より現職。専門は気分障害の精神病理学。